ネタバレしてしまうと面白さが半分以下になってしまう小説なのは間違いない。
もしもこれから“慟哭”を読もうか迷っている人がいるならば、この記事は読まずに閉じてほしいと切に願う。
小説が面白いことは間違いないので、とりあえず読もう。話はそれからだ。
貫井徳郎さんの全てが詰まっているのでは?と思わされる小説“慟哭”
連続する幼女誘拐事件の捜査は行きづまり、捜査一課長は世論と警察内部の批判をうけて懊悩する。異例の昇進をした若手キャリアの課長をめぐり、警察内に不協和音が漂う一方、マスコミは彼の私生活に関心をよせる。こうした緊張下で事態は新しい方向へ。
私はネタバレを気にしながら感想を書くのが好きではないことをここに申し述べておく。
余計な情報を入れずに“とりあえず読む”のが最適解なのは間違いない。
あとは自己責任でお願いする。
2つの時間軸は真反対の季節を刻んでいく
この小説は、二人の男を中心に進んでいく。
一人は佐伯。キャリア組の警視庁捜査一課長だ。
幼女誘拐事件が続き、捜査の過程で遺体が発見される。
最初に遺体が発見されたのは1月。真冬の出来事である。
幼女が行方不明になるのはいずれも月曜日で、マスコミは事件の関連性を追求していたが、手掛かりがあまりにも少なく、警視庁は肯定も否定もできずにいた。
捜査は中々進展せず、世間から警察への風当たりは強くなる一方だった。
もう一人の男は松本という。大切なものを失い、心にあいた穴を持て余していたが、ある日街中で一人の少女と出会う。
“あなたの幸せをお祈りさせてください”
少女の澄んだ眸に目を奪われ、少女の幸せそうな笑みが印象に残った。
真夏の昼下がりの出来事であった。
これを機に、松本は宗教に興味を示すようになり、少しずつ足を踏み入れながら、その世界にどっぷりと浸かっていく。
夏と冬の出来事が、くるくると入れ替わる。
どちらが先で、どちらが後なのか。それさえもわからないまま。
しかし物語が進むにつれて2つの季節が徐々に近づき、並行していた時間軸が少しずつ歪み始める。
二度目まして貫井さん
貫井徳郎さんの小説を読むのは2冊目だったりする。
1冊目は“愚行録”。あれも中々に面白かった。映画も良かった。
そんなわけで好印象のまま2冊目に突入したわけですが、こちらも大変面白く読むことができました(語彙力)。
まだ2冊しか読んでいないのに貫井さんを語るのは少々気がひけるものの、個人的には2冊とも同じような印象を受けました。
その印象とは、灰色の世界です。
扱うテーマが重いのは勿論のこと、暗い、色がない、鬱々として不幸なオーラしか漂ってこない。
なんということでしょう。
とっても面白い小説なのに、この小説について語ろうとすると、前向きな言葉が一つも出てきません。
鬱っぽくて暗い小説が好きな人、叙述トリックが好きな人にとってもおすすめな1冊であります。