医療小説『ミカエルの鼓動』を読んで鳥肌立ったので記録しておきます。
『ミカエルの鼓動』柚月裕子
最新の手術支援ロボット「ミカエル」で医療の未来は変わるのか…!?
主人公の西條医師は最先端手術支援ロボット「ミカエル」の第一人者で、北海道の大病院(北中大病院)に勤めている。
「平等な医療」を目指し、そのためにはミカエルが必要だと信じ、日々の診療にあたっている。
病院長・曾我部の後押しもあり、いずれは病院を継ぐ未来が見えている。
そんな西條の前に現れたのが、ドイツ帰りの外科医・真木医師。
ロボットは使わず、従来の開腹手術を驚くべき速さと正確さで行う天才外科医師。
真木が現れて以降、西條の日常に不穏な空気が広がり始める。
病院長の態度の変化、真木への焦燥感、ミカエルへの疑念。
そして突如転院してきた難病の少年。
先天性の完全型・房室中隔欠損症を患う少年の治療方針に対して、西條と真木の意見が割れる。
彼を救うのはミカエルか、開腹手術か。
医療の未来、最善の治療、患者の意思、家族の希望。
あらゆる葛藤が錯綜する医療小説で、読み応えのある作品でした。
昭和な雰囲気を醸し出す医療小説
ディスっているわけではありません。
私が好きなテイストの作品なので。
そもそも病院なんてものは、令和になった現在も昭和の空気を引きずっている業界ですから、違和感もありません。
私は医療系のドキュメンタリーを見るのが好きですが、医療ドラマを見るのが苦手です。
視覚情報に嘘が多く、全然没入できない。
そもそも医療現場ってそんな小綺麗じゃないし…なんて思ってしまう捻くれた自分がいます。
そういう意味で、小説という媒体は適していました。
まず、物語の舞台となる北中大病院の病院長であり経営者でもある曾我部。
自分の病院を大きくすることを最優先に行動するワンマン経営者です。
そして最先端ロボット「ミカエル」による治療に熱心な主人公の西條。
「平等な医療」という崇高な理想を掲げ、理想実現には「ミカエル」が必要不可欠なものだという信念が強固。
ライバルの真木はドイツ帰りの天才外科医なんだけれども愛想がまるでない。
北中大病院の経営戦略担当・病院長補佐の雨宮女史はキレ者だが真意がいまいち掴めず、
不穏な空気を持ち込むフリージャーナリストの黒木は胡散臭くて得体が知れない。
登場人物たちはそれぞれ、目指す目的や理想や野望があります。
その絡み合いが面白いのです。
人間が抱える矛盾
主人公のライバルとして充てがわれる真木医師は少々作り物めいていますが、
主人公である西條医師の葛藤はリアリティがあります。
「平等な医療」という崇高な理想を掲げる一方で、自分が第一人者である「ミカエル」への執着が見え隠れし、
いつの間にか「手段と目的が入れ替わり道を踏み外す」の典型だなぁと思ったり。
理想もあるけどプライドもある。
プライドがあるから理想を掲げられるのに、理想までの道のりを邪魔するのはプライドだったりする。
目の前の患者を救いたいという気持ちと、沢山の患者を救いたいという気持ち。
個別最適の集合が全体最適にはならないように、理想の中に生じる矛盾。
人間の複雑さがリアルに描かれていると思いました。
私の好きな登場人物
私が1番好きなのは雨宮女史。
彼女には明確な目的があり、全ての行動と選択がそこに収束しています。
自分の優先すべきものが明確で、周囲の人間に石を投げられても変わらない意志と覚悟あります。
彼女のような強い女性に憧れてしまいます。
クライマックスは手術のシーン
ネタバレになってしまうので詳細は伏せますが、最後に重要な手術があります。
そこまでの物語を読んだ読者は、なんとなくその後の流れに予測がつくと思うのです。
私自身も、読みながらなんとなく「こうなりそう…」と予測してしまいました。
しかしそれでも、読みながら鳥肌立ってしまった。
手術の緊迫感と、ミカエルの姿を想像してしまいました。
天使と悪魔が同居するロボットの姿。
それは美しくて、恐ろしくて、ゾッとするものでした。
この者は、
神か、悪魔か。
ミカエルにピッタリの、とても良いコピーだと思います。
私が好きな小説なので、明るい内容のものではないですが…w
興味のある方はぜひ読んでみてください。
そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。
お疲れ様でした!