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『命の値段』について考えたことある??【野良犬の値段】著者:百田尚樹


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百田尚樹さんの本を読むのは3冊目なのだけれど、今のところハズレ無し。

今回は、考えさせられることが多い一冊だった。

【野良犬の値段】を読んで考えたこと

ある日突然立ち上がった“誘拐サイト”

サイトに掲載されたのは、人質にされたホームレス6人。

誘拐サイトはSNSで拡散され、

メディアにも取り上げられ、

世間の注目を浴びていく。

犯人は、テレビ局や新聞社4社に身代金を要求した。

犯人を追う警察、沸き立つ世論、翻弄されるメディア。

それぞれの思惑が錯綜し、転がるように話が展開して目が離せなくなる一冊。

読みながらタイトルについて何度も考えてしまう

ただタイトルを眺めていてもなんとも思わないけれど、

物語を読み進めていくと段々効いてくる。

“野良犬の値段”とはつまり、

命の値段。命の価値。

決めるのは誰か。

妥当な価格はいくらなのか。

今回は“身代金”として価格が提示されるけれど、

現実にも命に価格をつけることはある。

裁判の賠償とかね。

若いから高い。

高齢者だから安い。

男だから高い。

女だから安い。

健常者だから高い。

障害者だから安い。

大企業に努めているから高い。

引きこもりの無職だから安い。

人の命は平等じゃないし、等価でもない。

 

病気の治療だってそう。

海外で移植手術を受けたら助かるかもしれない時。

命の価値がお金に替えられないほどのものだとしたら。

お金で助かるならいくらでも出す?

現実はそんな簡単じゃない。

人それぞれ、出せるお金には限度がある。

いくらまで出せる?

いくらなら命を諦める?

誰になら出す?

誰なら見殺しにする?

明確に線が引ける?

自分で決断できる?

その責任を引き受けられる?

 

これは日頃から私が考えていたことで、

今回の読書体験は、

この価値観を見直すいいキッカケになった。

 

そもそも私が命の価値について真剣に考えるキッカケをくれたのは、

先代の同居人だった。

体重わずか1.7kgのその小動物は、

私の生活のパートナーだった。

生まれてから早い段階でペットショップに並べられていた彼女は、

身体が弱かった。

成長し、大人になり、老いていくに連れ、

病気が増えるばかり。

動物の医療費は高い。

数万円なんて簡単に消える。

主治医は腕が良かったし、

夜間診療代を払えば夜中でも処置してくれた。

「今は診療時間じゃないし、夜間診代もかかりますよ?」

何度か確認されたこともあったけど、

「お金なら払うので診てください。お願いします」と頭を下げた。

主治医が阿漕な商売をしていたわけではないw

夜間診療代は元々HPなどでも明記している納得できる価格だし、

そもそも夜中の急変に対応してくれる獣医はとても貴重で、

夜間診療代を払うだけで腕のいい主治医診てくれるなら神対応だとさえ思う。

それでも時々主治医が私にお金の確認をしていたのは、

きっとそこに不満を漏らす飼い主が過去にいたのだろう。

いろんな飼い主がいて、

いろんな動物がいて、

その命を取り扱う仕事はきっとトラブルも多いはずだ。

私は彼女の8年という生涯の中で、

医療費におよそ100万円を費やした。

この金額を高いと思ったことはないし、

むしろ私にできることはお金を払うことと祈ることだけだった

100万円そのものが、私にとって端金という意味ではない。

20代事務職のOL(当時)にとってはむしろ大金だ。

それでも同居人の命が、私にとっては100万円よりも重かっただけの話。

 

問題はここからである。

さて、目の前に、命の危機に貧した見知らぬ人間がいたとする。

その人は私が100万を差し出せば助かる。

拒否すれば目の前で即死する。

私は今握りしめている自分の100万円を差し出すのか?

 

選択肢は3つある。

1つ目は、誰であろうと100万円を差し出す。

2つ目は、相手によっては100万円を差し出す。

3つ目は、誰であろうと見殺しにする。

 

1.誰であろうと100万円を差し出す場合

命は全て尊いものだと考える。

見知らぬ他者の命は自分の100万円より価値の高いものだと考える。

または「命を見殺しにした自分」が耐え難いものだと考える。

「命を救った自分」という価値を100万円で買う。

 

2.相手による場合

ここではさらなる選択を迫られる。

子供なら助けて、大人なら見殺しにするのか。

女なら助けて、男なら見殺しにするのか。

金持ちなら助けて、ホームレスなら見殺しにするのか。

「見知らぬ人」を、どのような基準で選別するのか。

「自分の100万円」に見合う命の価値を持つのは誰なのか。

 

3.誰であろうと見殺しにする場合

自分至上主義。

揺るぎない優先順位が必要。

世間や世論、他者の価値観に引きずられない信念が必要。

 

堂々と3を選択する人は少ないんじゃないかと思う。

人目があるかないかで選択が変わる人もいるはず。

いつまで経っても選べない人もいるかも知れない。

そんな人に制限時間を設けたらどうなるだろうか?

時間を過ぎたら、否応なしに「見知らぬ命」は目の前で即死する。

腹を括って選択するだろうか。

「時間切れ」を言い訳に「仕方なかった」と逃げるだろうか。

 

これと似たような葛藤が、

本書【野良犬の値段】の中でも沸き起こる。

ホームレスを人質にした誘拐犯。

日頃から偽善とも思えるくらい命の尊さを語るメディアは、

ホームレスに身代金を払うのか。

誘拐サイトで公開されるやりとりに群がり騒ぎ立てる民衆。

一般人は無責任に自分の価値観を語りだし、

世論は実態がないまま膨らみ続ける。

 

改めて自分の価値観を問い直すいいキッカケになるのでおすすめの一冊。

この本の結末について(ネタバレなし)

この事件は様々なパターンの結末が想定できる。

そして実際に描かれた結末は、

私にとって非常に好ましい結末だった。

読みながら「こうなって欲しい」と望んでいた結末だった。

よって、読後感も良かった。

しかしこの「望ましい結末」も、

読者の価値観によってそれぞれ違うはずだ。

最後まで読んで唾を吐きたくなる人もいるだろうし、

モヤモヤとして納得できない人もいるかも知れない。

私にとって面白かったのは、

この物語に望んだ結末と、

先述した100万円問題での自分の価値観が、

まるで一致しなかったことだ。

これにももちろん様々な要因があるわけなのだが、

平たく言えば所詮は私も「無責任な一般大衆の中の実態のない一人」なのだろうということ。

興味のある人は是非読んでみて。

*ハードカバー*

*文庫*

小説でよく見るこの一文に心を動かされたのは初めてだ。

「ふふっ」と笑いそうになった。

現実に起こった事件や、現実にある企業を連想させる記載が盛り沢山だったw

そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。

お疲れ様でした!

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