帰宅すると、22時をとうに過ぎていた。
床に座り込んだ私は立ち上がる気力も失って、自分の足先を眺めた。
テーピングを剥がす手が震え、中指の爪を見るとゾワリと鳥肌が立つ。
爪が横に裂けて、上側が指から離れそうになっている。
テーピングと絆創膏まみれの自分の指先を改めて見て、涙が出てくる。
膿んだり、出血したり、爪が剥がれたり…
私は一体何をやっているのか。
肉体的にも精神的にも追い込まれているのが自分でわかる。
全身が痛い。
足の先は特に痛い。
爪を剥がすことが拷問になることを、妙に納得してしまう。
人生何回繰り返しても、13歳の私はきっと毎回バレエを辞める。
こんな痛い思いしなくても、楽しいことは他に沢山あるから。
だけど今の歳になると、今辞めたらもう一生踊れなくなるだろうと思うから辞められない。
今日が一番若い。
そんな言葉を痛烈に実感する。
「痛いから」「辛いから」
そんな理由でトウシューズを脱いでしまったら…
明日の私は、今日の私より老いるのに。
もう二度と、トウシューズで踊れなくなる。
ただでさえ、怪我でもしたら明日には踊れなくなるかも知れないのに。
最後のチャンスかも知れないのに、自分から諦めるなんて…
頑張りたい。
頑張るって決めたのに。
今の状況があまりに辛い。
踊れるようになりたくて練習するのに、
上達するためには踊るしかないのに、
踊れば踊るほど足はボロボロになって、
どんどん踊れなくなっていく…
どうすればいいのかわからなくなって、ただただ涙が出た。
炎症を起こした足が痛すぎて、トウシューズに足を入れるのが怖い。
本番までに、私の爪は何枚残っているのか。
それ以前に、私の足は本番までもつのか。
シャワーを浴びて、早く寝なくては。
明日も朝からレッスンで、7時には起きなくてはならない。
そう思うのに、立ち上がれない。
救いを求めて、つい物語に手を伸ばしてしまう。
『ミッドナイトスワン』を、よりによって読んだら余計に落ち込みそうな物語を。
逃げ場がなくて踊りながらビルから飛び降りてしまったりんちゃんのシーンで余計に号泣し、
やっとの思いで立ち上がってシャワーを浴びたら風呂場でまた号泣した。
当たり前のようにお湯が指先に滲みた。
こんなに泣いたのは久しぶりで、
泣きすぎて自分がなぜ泣いているのかもよくわからなくなり、
私は泥のように眠った。
眠れた時間は長くなく、翌朝は瞼が腫れて少し重かった。
数時間の睡眠で身体の疲労がとれるわけもなく、全身が少しだるい。
でも少しだ。
「もう踊れなくなったらどうしよう」と昨晩は焦りと不安しかなかったけれど、
目覚めた私はまた踊る気になっている。
久しぶりに泣いてスッキリしたのかも知れないし、
眠ったら気持ちが落ち着いて回復したのかも知れない。
「今日はバレエシューズだけだし大丈夫」
自分にそう言い聞かせて入念にテーピングと絆創膏を巻いた。
大丈夫。
私はまだ踊っている。