色んな意味でフィクションのように書かれているけれど、これはノンフィクション。
死体鑑定医の告白
次から次へと上野さんの元に届く、死体の再鑑定依頼。
あの人は本当に事故で死んだのか。殺されたのではないのか。
あの人は本当に自殺したのか。事故ではないのか。
死体から、こんなにも沢山のことがわかるのかと正直驚いた。
死ぬ直前に受けた刺激。
死んだ後に起こる反応。
これらは偽ることができない。
『死体は嘘をつきませんよ』
『でも、残念ながら、生きている人は嘘をいう』
“死人に口無し”ということわざがあるけれど、これは“死体は嘘をつかない”ということと同義なのだろうと思った。
死人は釈明することができない代わりに、相手を撹乱するようなことも言えないのだから。
それはまるで短編小説のよう
本書は9編の事例で構成されている。
1.母からの切なる手紙
2.自殺か他殺かのボーダーライン
3.「目からウロコです」
4.お寺はなぜ燃えたか
5.ふたつの死因はない
6.父の無念を晴らしたい
7.二転、三転…
8.温泉の湯船に浮かんだ死体
9.涙の遺骨鑑定
これまで上野さんが行ってきた鑑定の中でも、特に印象に残っている事案をピックアップしたとのこと。
面白いのは、この中には『死体以外』の鑑定も紛れていることだ。
詳細については本書を読んで確認していただきたいが、法医学は意外な使い方があるのだと教えてくれた。
鑑定の依頼は、裁判結果に納得のいかない遺族が持ち込んでくることもあれば、
裁判で苦戦している弁護士が持ち込んでくることもある。
どちらにせよ本書は“再”鑑定の記録であるので、
一度出た鑑定結果に納得のいかない人たちが、藁にもすがる思いで上野さんの元へ依頼を持ち込んでくる。故に依頼人は皆、切羽詰まった状況だ。
「先生、なんとか二週間、二週間でお願いできませんか?」
中にはそんな風に言い残していく刑事もいる。
上野さんは依頼を引き受けると、資料にじっくりと目を通す。
そうして一つ一つの事象が、どうやってその結果に至ったのかを逆算していくのだ。
理屈 of 理屈。
私がいちばん苦手なやつ。
自分で組み立てるのが苦手な分、上野さんの解説を読んでいるとまさに「目からウロコです」だ。
3章の女性弁護士のセリフは私の感想として脳内で再生された。100%の共感。圧倒的。
本書はまるで短編小説のように描かれている。
上野さんはさながら安楽椅子探偵といったところか。
しかしながら各章の結末を読むたびに、これはフィクションではないのだと突きつけられる。
結末に綺麗なオチがつくのはフィクションだけで、現実はそう上手くはいかないからだ。
上野さんの仕事はあくまで鑑定で、その鑑定がどのような結果をもたらしたのかは知れる時もあれば知れない時もある。
報告をくれる依頼者もいるけれど、報告の義務はないということだ。
依頼者も生きている人間で自分の生活があり、そんな余裕はない場合もあるのだろう。
あるいは望み通りの結末が得られなかった可能性もある。
いずれにせよ、綺麗にまとまる時もあれば、まとまらない時もあるのが現実なのだろう。
法医学に興味のある方は是非。
ちなみに内藤了さんの猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子シリーズが好きな人も興味深く読めると思う。
死神女史(石上妙子)が監察医なので。
そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。
お疲れさまでした!