アマゾンから本が届いた。
送り主は母だった。
映画で話題になった【ミッドナイトスワン】の小説。
※ネタバレが嫌な人は読まないでください※
ミッドナイトスワン
母はこの作品が大層気に入ったようで、映画の感想を長文で私のLINEに送りつけてきたりしていた。何かを共有したかったのだろうと思う。
出不精で読書が好きな娘には、映画を薦めるよりも小説を送りつけるのが手っ取り早いと思い至ったに違いなかった。
あらすじと感想
故郷を離れ、新宿のニューハーフショークラブのステージに立つ、トランスジェンダーの凪沙。ある日、育児放棄にあっていたい少女・一果を預かることになる。常に片隅に追いやられてきた凪沙は、孤独の中で生きてきた不幸なバレリーナの一果と出会い、母性の芽生えを自覚するが……。
読んだ感想を先に述べるならば、この小説はとても面白かった。
何が気に入ったかと言えば結末が気に入った。【白鳥の湖】をテーマに据えるのならば、結末はやはりバッドエンドでなくてはならない(※私の個人的な価値観です)。
王子ジークフリートは、悪魔ロットバルトに魅入られ呪いをかけられた美しいお姫様のオデットを、結局は救うことができない。愚かな選択ミスをして、結局は死んでしまうのだ。
私はバレエの【白鳥の湖】がとても好きで、このミッドナイトスワンはそれを壊さずに上手くテーマに取り込んだと思う。
だから私はこの小説の感想を述べる時に、『面白かった』という言葉とセットで『気に入った』という言葉を並べることにしている。
(ちなみに映画の方では更に少し続きがあって、その解釈について意見が割れたらしいけれども、私は映画を観ていないのでそこについては考慮していない)
クラシックバレエとトランスジェンダー
母が私にこの作品を勧めたがった理由の一つが、テーマの一つにクラシックバレエが組み込まれているからだと思う。
私は子供の頃からバレエを習っていた。3歳になるからならないかの頃に始めているので、物心がついたときにはすでに踊っていたことになる。
一果も、一果の親友のりんも、子供の頃からバレエを習っている。
特にりんの境遇は過酷だったと思う。バレエは呪いのように、文字通り己の身を削って習得していくものだから。たったの10年で辞めた私の身体にでさえ呪いの爪痕は残っている。りんがもう使えなくなるほど足を壊したのは決して珍しいことではなく、バレエダンサーにはよくあることなのだ。身体が壊れるまで踊り続けたところで、結局は何も手に入らず終わることが多い。
だから大半の人間は壊れる前に諦めてしまう。私のように。
そりゃ、ビルから飛び降りたくもなるってものだ。
一方凪沙は、新宿のニューハーフショークラブで働いている。
新宿は、私にとっても馴染み深い街の一つだ。特に二丁目は…。
実は私の友人に、二丁目で飲み歩くのが趣味の子がいる。だから私も付き合いで行ったことがあるし、そこで働く人達とプライベートで遊んだこともある。
だから彼らや彼女らが、様々な事情を抱えているのは多少聞き及んでいたりする。
凪沙の場合は特に辛い境遇の方だとは思うけれど。
こればっかりは、経験した人にしかわからないことだと思う。バレエの過酷さと同じで、身を投じた人にしかわからない。
私はトランスジェンダーではないので、これについて語る資格はないように思う。
結末
フィクションの小説っていうのは、なんとなく現実では起こり得ないような偶然が起こって、なんとなく上手くいってしまうものである。それが悪いとは言わないし、むしろフィクションだからこそのそれが良いとも言えるのだけれど、今回はテーマがテーマなので、もしもなんとなくのハッピーエンドにしていたら、逆に白々しくなってしまったのではないかと思う。
だからこれで良かったのだ。
リアリティのあるフィクションも、たまにはいいじゃない。
現実は、大抵のことは報われないのだから。
You Tubeで見れる映画の予告。