【ストロベリーナイト】のシリーズ第二弾です。
かなり後味が悪くて胸が痛い作品。えぐい。そしてマジで心臓痛い…。
それなりの厚みがある文庫本ではありますが、あっという間に読了しました。
前作【ストロベリーナイト】の感想はこちら>>水面下で広がる殺人ショー【ストロベリーナイト】 誉田哲也 - Daydream
小説【ソウルケイジ】著者:誉田哲也
多摩川土手に放置された車両から、血塗れの手首が発見された!近くの工務店のガレージが血の海になっており、手首は工務店の店主のものと判明。死体なき殺人事件として捜査が開始された。遺体はどこに?なぜ手首だけが残されていたのか。姫川玲子ら捜査一課の刑事ちが捜査を進める中、驚くべき事実が次々と浮かび上がる!
不審車両から発見されたのは左手首のみ。しかしDNA鑑定の結果、手首と近隣ガレージの血液は同一人物のものと判明する。出血量が明らかに致死量を超えていると判断できたため、死体がないまま殺人事件と認定された。
残されていた左手首だけで個人を特定することはできるのか。
左手首から辿る登場人物が多すぎる
死体がない分、事件は巧妙に隠されている。
警察側に与えられているのは血の海と化したガレージと、河川敷に放置されていた不審車両、そして車両内に転がっていた左手首のみ。
重要参考人は手首の持ち主(と思われる)高岡賢一が面倒を見ていた、息子のような存在の三島耕介。
わずかなヒントから左手首を辿っていくと、手首の持ち主を知る人物が出てくる出てくる…。しかし関係者が増え、話を聞いていくうちに、段々と齟齬が生じるようになる。
前作のストロベリーナイトと比べると、登場人物が圧倒的に多い。
それはこの事件が過去の事件と複雑に絡み合っているからなのだけど、頭の中を整理しながら読まないと途中で混乱してしまう。
読み終わって改めて思うのは、無駄な表現は一つもなかったのだなということ。事件の真相は案外とすぐ近くにあって、けれどそこへ辿り着くには遠くのピースから地道に拾い集めねばならなかったということだ。
連鎖する貧困と、全てを凌駕する父性
持てる者はますます富み、
持たざる者は更に奪われる。
マタイによる福音書に因んだ言葉を思い出さざるを得ない本作。
資本主義経済の負の部分を背負うことになった人たちは、こういう末路を辿るしかないのだろうか。世の理が平等ではないことを前提に成り立っている以上、誰かがかならず被らなければならない“業”とでも言おうか。
自分の死に方について想像したことはあるだろうか。
寿命を全うし、痛みもなく、眠るように死ぬことができればそれが理想かも知れないが、そうなる保証はどこにもない。
病気、不慮の事故、あるいは自ら死を選ぶしかなくなるかも知れない。それは誰にもわからない。
かねてより私は、“高いところから落ちて死ぬのは嫌だな”と漠然と思っていたフシがある。それは単純に、私自身が高所が苦手だということに他ならないのだけれど(ジェットコースターと観覧車が大嫌い)。
本作を読んで、死に方に関しては少し考えを改めた。
都内某所で建設中の、とあるビルを見上げながら思ったのだ。“あそこから飛び降りるのは、案外簡単なのかも知れない”と。
追い詰められた人間が高所から飛び降りるのは、ほんの一瞬の決意だけあればいい。足を踏み外す、その一瞬だけ。否、もっと言うならば、“決意”なんて大層なものは必要ない。“一瞬の思考停止”。それだけで十分なのかも。
足を踏み出してしまったら、あとはもうどうにもならない。仮に後悔したとして、それでももう死ぬしかない。一瞬の決断が、もう二度と覆せないものになる。
ビルの九階とは、そういう高さなのだ。
だから本当の狂気の沙汰は、飛び降りた三島の父ではない。手首を切り落とした、高岡賢一の方なのだと思った。
シリーズとしての楽しみもある
今回再び捜査員として井岡くんが登場する。私が1番好きなキャラかも知れないw
玲子と菊田の関係も…進展するようなしないような…?個人的には菊田のような男性はあんまり好きじゃない。ハッキリしなさすぎるし弱すぎるw
ガンテツは噂話くらいしか出てこないけど、かわりに今回玲子と競うのは同じ十係の日下警部補。対象的な捜査をする二人の衝突も見所の一つと思われる。
本作の事件はストロベリーナイトほどの派手さはないが、複雑で、陰湿で、悲壮感満載の事件となっている。最後はちょっぴりエグくて、心臓が痛くなるおまけつき。
とってもおすすめ。
前作【ストロベリーナイト】の感想はこちら>>水面下で広がる殺人ショー【ストロベリーナイト】 誉田哲也 - Daydream
そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。
お疲れさまでした!
※この記事は旧ブログにて2018.5.15に掲載したものを、本書の再読にあたり加筆・修正したものです※