Daydream

全ては泡沫のごとく、ただ溶けて消えていくだけ。。。

それは怪奇現象か、トリックか『姑獲鳥の夏』京極夏彦


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『姑獲鳥の夏』それは怪奇現象か、トリックか

6年ぶりの再読がとても良かったので感想をつらつらと書きたくなった。

お時間のある方ぜひお付き合いください。

『姑獲鳥の夏』のあらすじ

「二十箇月もの間子供を身籠っていることができると思うかい?」

古本屋「京極堂」に、関口巽はゴシップ話を持ち込んだ。

雑司ヶ谷の産院にまつわるもので、娘は二十箇月も身籠ったままで、その夫は密室から失踪したと言う。

それは怪奇現象か、トリックか。はたまた尾ヒレがついただけの噂話か。

古本屋の店主であり、その傍ら武蔵清明社の神主として憑き物落としを生業とする中禅寺秋彦が事件の真相を明らかにする。

『姑獲鳥の夏』登場人物について

今回の事件に介入する4人の男たちについて、私の主観をガッツリ混ぜてご紹介します。

彼らのキャラクター性が物語を面白くしているポイントだと思うのです。

『姑獲鳥の夏』に限らず本シリーズ全体を通して活躍していくと思われる人たちです。

関口巽

本作の主人公、小説家。生計を立てるためにカストリ雑誌などに載せる文章なども書く。うつ病経験者のコミュ障。

繊細かつ感情的であり、ある意味4人の中で一番普通の人。

読んでいると彼に対して苛つくこともあるけれど、ある種の同属嫌悪なのかも?と思ったりもする。

「その亭主は、なんと密室から煙のように消えてしまったらしいんだな。これはミステリィじゃないか。十分取材の価値はある」

中禅寺秋彦(通称:京極堂)

古本屋を営んでいるため友人たちからは屋号の「京極堂」と呼ばれている。

武蔵清明社の神主でもあり、副業として憑き物落としなることもしているが詳細は不明(読めば明らかになる)。

本好きの博識の皮肉屋。

「いいか、関口。主体と客体は完全に分離できない――つまり完全な第三者というのは存在し得ないのだ。君が関与することで、事件もまた変容する」

榎木津礼二郎

旧華族出身のお坊っちゃま。

「薔薇十字探偵社」を営む探偵。

家柄もよく文武両道眉目秀麗、一見完璧にみえるけれど、社名からも分かる通りちょっと変わっているというか奇人変人の類。

そして探偵業に役立つ少し特殊な能力を持っている。

現場には赴くものの、基本的に調査や推理はしない。

「関君、僕は捜査なんてしないんだよ。あるのは――結論だけだ」

木場修太郎

「難しいことはわからん!」という感じの肉体派行動派の警察官。

職業柄、必然的に事件の最終的な後始末担当となる。

「俺はそもそもその手の話は嫌いなんだ。いや、信じない訳じゃないし、信じてる訳でもない。どっちだか解らねえから嫌なんだ」

一番現実を生きている人。

京極堂が語る量子力学について

小説で扱われるテーマの中で、私が好きなものの一つが量子力学です。

本作でも、京極堂が「不確定性原理」について語るシーンがあります。

感性の塊みたいな関口君にもわかるように、あらゆる物事を論理で語る古書店の店主。

 

“この世には不思議なことなど何もないのだよ、関口君”

 

脳と心の関係、意識と潜在意識、記憶と記録、現実と仮想現実。

「君を取り囲む凡ての世界が幽霊のようにまやかしである可能性はそうでない可能性とまったく同じにあるんだ」

私自身も過去に何度か不思議な体験をしたことがあるけれど、それらの現象を紐解くのに京極堂の理論を引用するのが1番しっくりきます。

彼の理論を通して見る世界は面白いのです。

量子力学でネタにされやすいものとして、他に「シュレディンガーの猫」という思考実験や「二重スリット実験」などもあります。

私は物理学のことなんてまるでわかりませんが、これらに関する話はとても興味深く面白いです。

「物語のスパイスとしてとても良い」という軽い気持ち。

つまりは京極堂が話すような蘊蓄を聞くのが好きなのですね。

6年前に書いた感想でもその点に触れていました(すっかり忘れていたので読み直した)。

私が好きなもの、変わってないんだなぁと思った。

当時『姑獲鳥の夏』を読みながら「酔歩する男」(小林泰三)を思い出したと書かれていて懐かしい気持ちに。

それは6年経った今回の再読でも変わることはありませんでした。

※「酔歩する男」は『玩具修理者』に収録されている作品※

こちらもとても好きな一冊。

私の中で、今では『三体0 球状閃電』も仲間入り。

最後が切なすぎるんだ。

『姑獲鳥の夏』を6年ぶりに再読した経緯

6年前は『姑獲鳥の夏』と『魍魎の匣』だけ読みました。

元々気になっていたシリーズで、ついに手を付けたという感じ。

そして読んでみたら案の定というかなんというか…非常に面白いということを知ってしまったのですね。

シリーズ内では『魍魎の匣』の人気が特に高いようですが、私は『姑獲鳥の夏』の方が好きでした。

ヒステリックな関口くんに若干イライラしつつ…笑

けれど世界観と言うか、全体の雰囲気と言うか…とにかく『姑獲鳥の夏』が好みのタイプだったのです。

そんなわけでシリーズを制覇しようと決意。

以来本屋さんで見かけるたびにコツコツと買い集めてきました。

そんな折、著者の京極夏彦さんがデビュー30周年を迎え、SNSで動画が流れてきたのです。


www.youtube.com

30年愛され続けているなんて凄い。

エンタメが量産され続ける現代で、30年経っても色褪せず埋もれず廃れず面白い作品て…めちゃくちゃ凄すぎる。

更にはシリーズ17年ぶりに新作『鵺の碑』が発売されました。

なんかもういろんな話題に押し流されて、「百鬼夜行シリーズを改めて堪能したい!」となったのです。

終盤にまだいくつか抜けている巻がありますが、あらかた揃ったのでついに読み始めてしまいました。

長いので読み進めるにはある程度時間がかかると思うので、それまでに抜けを埋められたら良し。間に合わなければもうネットでお取り寄せします。便利な世の中だ。

2024年の読書は京極夏彦さんの「百鬼夜行シリーズ」を堪能する1年になりそうです。

そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。

お疲れ様でした!

※本記事は旧ブログに書いた2018.1.19の過去記事を参照して執筆しました※