誰もが美しくなれる奇跡の水。
つけたら最後、
破滅のはじまり。
ただ見た目を美しくするだけでは幸せになれない
アマプラでアニメ映画を観て衝撃を受けた。
韓国産のサイコでホラーなサスペンスアニメ映画。
色々と考えさせられるという意味で、とても面白かった。
整形水のあらすじ
主人公のイェジは、幼い頃から自分の外見に大きなコンプレックスを持っている。
バレエのコンクールで誰よりも上手く踊れたのに、順位は二位だった。
自分は美しくないから、上手く踊っても一位をもらえない。
幼いうちに、高すぎる壁に人生を阻まれたイェジ。
トラウマを解消できないまま大人になり、
人気タレントのメイクを担当していたのだが、
突如自分もエキストラとしてテレビに映ることになった。
そのシーンが放映されるとネット上で、イェジの外見に対して悪意のある書き込みが…
それを見たイェジは、ショックで家に引きこもってしまう。
親の呼びかけにも答えず、自室で暴飲暴食を繰り返していると、
ある日イェジ宛に荷物が届く。
それは巷で都市伝説的に話題の“整形水”。
痛みも副作用もなく、顔を浸せば思い通りに顔を変えられるという。
誰もが美しくなれる奇跡の水。
つけたら最後、
破滅のはじまり。
奇跡の水は破滅の水
外見に重度のコンプレックスがある主人公が、奇跡の水で美しく生まれ変わる。
コンプレックスが解消されてハッピーエンド…!!
…とはならいのはなぜだろう?
人生は、突然顔だけ美しくしても好転しないのだ。
ルッキズムという言葉がある。
外見至上主義。
身体的特徴に対して過度な評価をすることを戒める時にも使われる言葉。
他者の外見を評価することに対しての善し悪しを、
今回この記事で議論するつもりはない。
ただ現実問題として、他者から外見を評価されるシーンは数多くあるし、
私自身も他者を外見で評価することは多くある。
視覚情報というのは真っ先に飛び込んでくるものなので、
これはもはや無意識に近い。
奇跡の水で美しくなった主人公は、幸せになることができなかった。
彼女は突然外見だけが美しくなりすぎて、
中身がそれに伴わなかったのではないだろうか。
『中身が伴わない』とは、
『中身が美しくない』という意味ではない。
『美しい外見を上手く利用する度量がない』という意味だ。
彼女は突然手に入れた『美しい外見』を持て余し、使い方を誤った。
だから破滅してしまったのだ。
他人事とは思えない主人公に、言いたいことが山ほどある
現実問題として、外見で評価されることは多くある。(本日2回目)
それは変えようのない事実だし、
幼い頃に挫折したイェジはこの事実を誰よりもよく知っているはずだった。
嫌というほど知っているはずなのに…。
大人になった彼女は、顔の造形以前に肥満体型を維持している。
仕事帰りにはコンビニでジャンクフードや酒を大量に買い込む生活。
それはとても衝撃的な光景だ。
体型は顔の造形とは違う。
ある程度自分の努力で変えることが出来る。
アジア圏においては、現代の社会問題になるくらい『痩せ型』が美として評価される。
それは事実で現実だ。
そこを目指すかどうかはもちろん個人の自由だけれど、
イェジに関して言えば、
明らかに外見に対するこだわり(コンプレックス)を持っている。
だったらせめて…
痩せ型でなくてもさ…
せめて普通の体型を維持しておこう…
トラウマとストレスで過食になって、
卑屈を蓄えるように肥満になって…。
可哀想だ、仕方ない、と言ってしまえばそれまでだけど。
だからって、誰もその脂肪を肩代わりはしてくれない。
結局は自分がその身体で生きていかなくちゃいけない。
体型を気にしない人はそれでいい。
美味しい食事を生きがいにしている人だってたくさんいる。
太っている方が幸せを感じる人だっているし、
太っている女性の方が好きな男性もいる。
自分が幸せならなんでもいいと思うんだ。
でもイェジは違う。
太った身体にもコンプレックスを抱えているし、
食べている時も全然幸せそうじゃない。
人生ではどうしようもなく辛い時もあれば、楽な方へ流されてしまうときもある。
でも、いつかどこかで切り替えなければ。
踏ん張って負の連鎖を断ち切らなければ。
結局は自分が後悔することになるって…心に刻んでおこうと思った(自戒)。
悲しいけれど、バレエなんて偏見の塊だから…。
イェジが幼い頃にバレエをやったのは失敗と言える。
バレエはスポーツじゃないから。芸術だから。
初めから美しさを求められている。
だからきっと、幼い頃にイェジが感じた絶望は、
勘違いなんかじゃないんだ…。
悪魔から白鳥になる呪いをかけられたお姫様は、
色白で、か細くて、華奢で繊細で儚くて美しいの。
だからこそ観客は、悪魔に呪われたお姫様に同情してくれる。
現代の思想に全くもってそぐわないと私も思うけど。
イェジを見ているとなんだか他人事とは思えない。
ストレスで過食や摂食を起こすのは、現代でも珍しい事じゃない。
私自身も若い頃に、摂食を起こしたことがある。
いまどきの若い子たちがどんな価値観で生きているかは知らないけれど、
少なくとも昭和生まれの30代後半には刺さる内容だったなぁ…。
途中、美しくなったイェジが、
連日男性たちに食事に連れて行ってもらって、
「あれ…太った…?」とお腹のわずかな贅肉を気に留めるシーンがあるんだけど…。
イェジは食事制限をするでもなく、運動をするでもなく、
迷う事なく真っ先に“整形水”に手を伸ばす。
そんなイェジを見て、イェジの母親は
「痩せたいなら整形水じゃなくて運動でしょ」と、
当たり前すぎることを言って、イェジを止めようとするんだけれど。
これこそが『美しい見た目に中身が伴わないイェジ』を象徴しているように思う。
あぁ……
勿体ない……
整形賛成派
私自身は、整形そのものには反対しない。
見た目にコンプレックスがあって、
本気で整形したいと思うなら、
整形したらいいんじゃないかと思う。
重たいコンプレックスを抱えて長年卑屈に生きるくらいなら、
思い切って全部手放して、
楽しく生きた方が絶対に有意義な人生になる。
繰り返しになるけれど、
イェジの失敗点は美しくなっても全然幸せになれてない所。
それはつまり、
イェジの人生が充実していなかったのは、
『顔の造形』意外にも原因があったって事だと思うんだ。
他責思考もここまでいくと危険…と言うか、身を滅ぼすな、と。
イェジを見ていて時折不快感を感じるのは、
恐らく私の中にもイェジに似た部分があるからなんだよね。
そのことを心に留めておきたい。
つい忘れてしまいがち。
ちょっぴりグロい描写もあるけれど、
それも含めて面白いアニメなので興味のある人は是非観てみてね。
そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。
お疲れ様でした!(2769文字)