この本を読みながら真っ先に私が思ったことは、
「うちの会社、(マニュアル作り)失敗したな…」
ということである。
誰もが知っている【無印良品】。
社内がどんな風なのかが垣間見え、色んな人が興味深く読める本だと思う。
特に会社員の人は、自分の勤め先と比較すると面白いんじゃなかろうか?
MUJIGRAMの存在意義
まず、この本は私は図書館で借りて読んだのだけど、
読み始めてすぐに、「この本は紙で買っても良かったな…」と思った。
それくらい面白いし、恐らくあとでまた読み返したくなるような内容なので、
次に読むときは紙で買おうと思う。
一冊に凝縮された貴重な視点
この本のアドバンテージは2つある。
1つ目は、著者が松井忠三さんであること。
彼は無印良品の業績が落ち込み、赤字38億円を叩き出した時に社長に就任し、その後業績をV字回復させている。
傾きかけた企業で松井さんは一体何をしたのか。
どんな目的を持って、どんな行動をしたのか。そして社内の反応はどうだったのか。
その記録が詳細に記されている。
私のような末端の怠惰な会社員には絶対に知り得ない境地が記されているのだ。
2つ目は、本書が3冊の本を合本し、再編したものであること。
目次を見ると3部構成になっているけれど、元々はこれらが別々の本であったことを意味する。
私は未読の本ばかりなので、本書には妙な「お得感」を感じた。
いずれも株式会社良品計画、または無印良品というブランドの内部を切り開いて解説するような内容で、
ブランドコンセプトだけでなく「本作り」においても芯がブレないのだな…と感心するばかりである。
無印良品は、仕組みが9割
私が最も面白く(興味深く)読めたのは、第一部の【無印良品は、仕組みが9割】だ。
ここでは社内のマニュアルについて詳細に紹介されている。
私がこの章に強く惹かれたのには理由があって、最近私の勤め先でもマニュアルが整備されたからだ。
私の知る限りでは5年ぶり、2度目のマニュアル整備である。
冒頭にも記載したとおり、結論から言えば弊社はマニュアル整備に失敗している。
それは本書を読めば火を見るより明らかだ。
因みに人材育成やリーダーシップ・マネジメントに興味がある人は第二部の【無印良品の、人の育て方】が、
事業の拡大や海外進出に興味がある人は第三部の【無印良品が、世界でも勝てる理由】が特に面白く読めると思う。
様々なビジネスパーソンがその時々で、何かしらアンテナに引っかかるであろう構成が素晴らしいなと思ったりもした。
気になるものがあれば個別に本を買ってみるのも1つの手かと思う。
マニュアル整備はかなり難易度の高い経営活動の1つと言える。
緊急性は低いけれど重要度の高い活動で、尚且つ現場からの反発が生まれやすい。
私自身は反発する現場側の人間なので、マニュアルなんて無い方が楽だというのが正直なところ。
しかしながら企業としてマニュアルが必要なのは理解できる。
どうせマニュアルを使わなくてはならないのなら、
精度が高く、使い勝手が良く、現場がストレスに感じないマニュアルがいい。
なんて言うのは簡単だけれど、これでは具体性がなく再現性もない。
そもそもそんな魔法のようなマニュアルは存在するのか?
その答えが本書にはある。
マニュアルの目的と役割
これほどの膨大なマニュアルを作ったのは、前述したように、個人の経験や勘に頼っていた業務を“仕組み化”し、ノウハウとして蓄積させるためです。仕事で何か問題が発生したとき、その場に上司がいなくても、マニュアルを見れば判断に迷うことなく解決できる。たったこれだけのことでも、現場の実行力が生まれ、生産性は高まるでしょう。
これぞまさに「言うは易く行うが難し」の典型例と言える。
そこまで質の高いマニュアルが一朝一夕にできるわけもなく…。
そもそも無印良品には、2つのマニュアルが存在する。
- MUJIGRAM
- 業務基準書
MUJIGRAMは店舗用のマニュアル。
業務基準書は本社用のマニュアルだ。
MUJIGRAMは約2000ページ。
業務基準書は約6000ページに及ぶ。
考えただけでも膨大な量だ。
作るのにどれほど時間と労力をかけたのか…。
中には図やイラスト、写真などがふんだんに盛り込まれているらしい。
しかもMUJIGRAMは、月平均で約20ページ、全体の1%が更新される。
1年間で約12%が更新される計算だ。
生きたマニュアル。
使われ続けるマニュアル。
社内にはマニュアルを整備する専門の部署まであるという。
そんな部署がある会社なんて初めて聞いた。
逆に言えばマニュアルがそれほど重要で、価値があるということだ。
しかしながらその価値は、生半可な取り組みでは生まれてこない。
松井さんの実行力と徹底ぶりが物凄い。
業務を属人化しないこと(業務を標準化すること)。
100点でなくても、マニュアルを見れば誰もが80点の仕事ができること。
誰が何をしているかが誰にでも分かる、風通しのよい組織であること。
無駄を省き、生産性を高めること。
教育のツールにもなること。
個人の利益ではなく、ブランドの継続という目的意識を全員が共有すること。
無印良品のマニュアルには、松井さんの理想が詰まっている。
生きたマニュアルの作り方
これほど意義をもつマニュアルを作るためのポイントは、恐らく3つだ。
1つは、呆れるほど詳細であること。
2つめは、リアルタイムで変化し続けること。
3つめは、現場でマニュアルを使う人間がマニュアルを作ること。
この3つを実現するには、相当の時間と労力、コストがかかる。
やるならば徹底的に、でなければ全てが無駄になる。
仕事は「生き物」です。日々、変化し、進化していきます。
「今の仕事のやり方」が、来月もベストであるとは限りません。
(中略)
拙著『無印良品は、仕組みが9割』を刊行してから、他の企業から「うちのマニュアルを見てください」と依頼されることが増えました。そこで、その企業に足を運んで見てみると、製本したマニュアルがずらっと並んでいます。「これは皆さん使ってないんじゃないですか」と聞くと、「よくわかりましたね」という答えが返ってきます。
(中略)
MUJIGRAMはページの追加や削除、変更などを差し替えやすくするために、紙にプリントアウトし、バインダーに綴じています。現場からの改善提案の数は、年間でおよそ2万件です。
本書内では実際のMUJIGRAMが紹介されているけれど、驚くほど細かく業務が記載されている。
売場づくり、マネキンのコーディネート、発注業務など。
1つ1つの業務について、
- この業務はなんなのか
- なぜ、なんの目的でやるのか
- いつ、誰がやるのか
そんなことまで書かなくてもいいのでは?
それくらい書かなくてもわかるのでは?
そう思ってしまうほど内容が詳細だ。
しかしそこにこのマニュアルの意義がある。
「MUJIGRAMさえあれば、私も今から無印良品の店員さんになれるのではないか?」
とさえ思えてくる。
これが松井さんの言う「業務の標準化」と「誰もが80点の仕事ができる」ということなんだろう。
リアルタイムのアップデートは前述したとおり。
マニュアル整備の専門の部署があり、そこには年間2万件の改善要望が現場から上がってくる。
それらを部署で精査し、毎月アップデートが繰り返される。
文字通り生きたマニュアル。
最後に、最も重要なのは、現場でマニュアルを使う人間がマニュアルを作っているということだ。
「マニュアルを作る」という指針はトップダウンの命令だけれど、その内容についてはボトムアップで現場の意見が重視されている。
現場のことは現場の人間が1番よく知っているからであり、
自分の意見が反映されると人はやり甲斐を感じるものであり、
何より自分の意見が反映されたマニュアルは使わざるを得ないものになる。
これら3つのポイントを重視するだけで、かなりマニュアルの質が高まるのではないかと考える。
しかし繰り返しになるが、当然「言うが易く行うは難し」だ。
マニュアル作りは面白そうだ
ここまで徹底された「生きたマニュアル」ならば、作る側に回るのは案外面白そうだと思ってしまった。
わかりやすく私の好きな「生産性」と「効率化」ういう言葉に繋がっていくのがいい。
反対に、冒頭に書いた弊社のマニュアルは、わかりやすい失敗例と言っていい。
5年ぶりのリニューアル。
現場の意見一切無視のトップダウンな内容。
5年前に作られたマニュアル同様、いずれ誰も使わなくなるのは目に見えている。
何よりマニュアル制作者が放った一言が忘れられない。
とある1ページを指差し、
「マニュアルにこの項目がある意味(業務の目的)わかります!?(お前ら文章見て察しろよ)」だ。
全然詳細じゃない。
全然業務が標準化されてない。
見る人によって解釈が変わってしまってはマニュアルの意味がない。
こんな些末なマニュアルは、松井さんが見たらキレることだろうさ。
皆様も、ぜひ自社のマニュアルとMUJIGRAMを見比べてみてほしい。
面白い発見があるかもしれない。
因みに2022/05/10現在、本書の第一部と第三部の元になっている書籍2冊はKindle Unlimited(キンドルアンリミテッド)の読み放題対象本となっている。
加入している方はお試しあれ。
MUJIGRAMは人材育成にも密接に関わっており、それについては次章(第二部 無印良品の、人の育て方)につながっていく。
企業の土台となるマニュアル恐るべし。
第三部まで読めば、これはもはや社員の洗脳なのでは?と思わされる。
私は仕事に利益を追求するタチらしいので、そう見えてしまうだけかも知れないけれど。
ここまでくると、良品計画の給与や労働時間がどうなっているのか気になってくる。
そんな感じで、本日ワタクシからは以上でございます。
お疲れ様でした!(4371文字)